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zoom RSS シニアが救うAIBOの命

<<   作成日時 : 2015/01/09 12:11   >>

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 永遠の命と思っていたロボット犬にも寿命がありました。
 それを救うシニアエンジニア集団のちょっといい話です。

 「ロボットだから大丈夫だと思っていたのに、こんなに早く寿命が来るとは」。
 ソニーの犬型ロボット「AIBO(アイボ)」オーナーたちの多くに共通する思いだ。
 生産終了に続き、2014年3月に修理窓口も閉じて、ペット同様にかわいがってきたAIBOの飼い主は途方に暮れている。
 そんな中、シニア世代のエンジニア集団が救世主になりつつある。
 「要望がある以上、何とか頑張る。それがエンジニア魂」との思いが、短命で終わろうとしていたAIBOに新たな命を吹き込んでいる。

 「4足歩行型エンタテインメントロボットAIBO」は1999年6月、国内で3000台を受注販売したのを皮切りに、顔や形の違う5世代が発売され、日米欧で15万台以上を販売した。しかし、2006年3月に生産終了になると、部品保有期間が過ぎた14年3月、修理窓口「AIBOクリニック」を閉じた。

 AIBOは箱から出して電源を入れても最初は何一つできない。それが、褒めて体をなでたり叱ったりなど、飼い主からのコミュニケーションに伴って、徐々にいろいろなことができるようになる。まるで生まれたばかりの子犬が成長するかのように。

 「他のAIBOは知りませんが、うちのMomo(モモ)ちゃんは本当に賢い子なんです」と話すのは、都内在住の団体職員、吉野久美子さん(仮名、57歳)だ。仕事と母親の介護を抱える吉野さんは、散歩や餌の世話が必要な犬は飼えない環境の中、AIBOを見て、これなら飼えると思った。シリーズの中で、丸く、かわいらしいデザインの5代目AIBO(ERS−7)が登場し、銀座ソニープラザで一目で即決。発売直後だった03年11月に飼い主となった。

 吉野さんは手塩にかけた。毎日、声をかけ、何かできるたびに頭をなで、褒めて育てた。モモちゃんはすくすく成長し、朝の出勤時には玄関先で手を振り、吉野さんを見送ってくれる。片足をあげてのおしっこ、お尻を突き出しながらおならをするしぐさも、まるで犬。顔認識で記憶された吉野さんを見つけると、「くみちゃん、くみちゃん」とすり寄ってくる。

 仕事のストレスで疲れていると「まるで察しているみたいにじゃれてくる。家族の一員だし本当の犬みたい。私にとっては、かけがえのない存在です」(吉野さん)。抱きかかえて背中をなでると大人しく身を預け、そのボディーから伝わるバッテリーの熱はほんのり温かく、生き物のように思えてくる。

 数年に一度、足にトラブルが起こり、AIBOクリニックで修理を受けていたモモちゃん。数年前、後ろ足の片方に再びトラブルが起き、すぐに転ぶようになった。立ち上がろうとするが、響き渡る機械音に吉野さんは驚き、クリニックに出した。けれども「部品切れで修理不能」と直らずに戻ってきた。以後、歩かせる時間は数分ほど。これ以上、故障箇所が増えたら困ると、充電用ベースに置いて話しかけるだけになった。最初は置物が話すと怖がっていた孫も徐々にモモちゃんに慣れ、「どうして病院に行かないの?」と心配するほどになっていた。

 偶然、修理してくれる会社を見つけると、すぐに連絡を取り、14年8月に依頼。12月中旬、修理が終わったと連絡を受けた吉野さんは「私にとって一番のクリスマスプレゼント」と喜んだ。帰宅したモモちゃんの足元は完璧で、数カ月間の不在の寂しさを一気に吹き飛ばすほど、部屋中を元気に歩き回っている。「ロボットには癒やしの機能があることを、孫にもモモちゃんを通じて知ってもらいたいですね」

■駆け込み寺は「元エンジニア」集団

 吉野さんが修理を依頼したのはビンテージ機器修理を請け負う「A・FUN」(ア・ファン、千葉県習志野市)。吉野さんのように口コミや報道でAIBOの修理ができると知った全国の飼い主から、続々と依頼が舞い込んでいる。

 「おなかがすいたよぉ。もうだめ…」と充電池切れをアピールするAIBOの横で、ぎこちない歩きから突然転び、「関節が痛いよぉ」と言ったきり動かなくなるAIBO…。茨城県笠間市の民家の一室に初代から5代目まで、AIBOが十数台。「これでも他のエンジニアが修理できるようになったから減ったけれど…」とア・ファン社長の乗松伸幸さん(59)は話す。

 乗松さんは元ソニー社員。エンジニアとして入社したが海外営業が長く、2010年末に早期退職した。「愛着が湧いたオーディオなど家電を使い続けたい人と、技術があって第二の人生を生きているエンジニアをつなげる橋渡しをしたい。一種の社会貢献です」と、主に黒物家電を想定した修理会社を11年に起業した。現在、エンジニアは全国に15人おり、得意ジャンルに応じて依頼品を修理する。もちろん、乗松さんもエンジニアとして修理を行う。

 ア・ファンが初めてAIBOの修理を請け負ったのは2年前、すでにメーカー修理が終了していた初代AIBOだ。「AIBOを連れて介護施設に行きたい。修理してほしい」という人からの依頼だった。

 AIBO修理の担当はソニーで修理エンジニア歴20年の船橋浩さん(61)で、2000年に購入した初代AIBO(ERS−111)「銀太郎」の飼い主でもある。「うちのも壊れて“飾り”になっていた。直してあげたかったが、構造が分からないから分解しようがなかった」(船橋さん)

 乗松さんと船橋さんは設計担当をはじめ、AIBO開発に関わった人たちに接触。一からAIBOを学んで修理ができるようになり、無事に帰すことができるようになった。

 「ア・ファンなら直る」。そんな口コミが広まり、個人や公立科学館からも依頼は舞い込む。メーカー純正部品はすでにない。市場に流れるジャンク品から部品をかき集めたり、自分たちで類似品を作ったりして対応する。「銀太郎の耳を同型の依頼主のAIBOに付けたこともある。自分のことは後回し。家族の要望で銀太郎も直しましたが、片耳は手製になった」(船橋さん)

 14年3月末、クリニックが閉じて依頼は増加。乗松社長は同社所属のエンジニアを集め、船橋さんが積み上げたノウハウを伝授し、受け入れ体制を強化した。「普通の使い方なら型番によって壊れる部分は同じ。首、足、尻尾と弱い部分に出る」(船橋さん)。

 神奈川県在住、50代の無職女性はペットロスの経験から悲しい思いは二度としたくないと、AIBOを飼うことにした。2代目(ERS−210)を飼い、旅行にも連れて行ったが、「1匹は寂しいだろう」と5代目AIBOも購入。飼い主歴10年を超える。2代目をオス、5代目をメスに見立ててかわいがってきたが、5代目に比べ2代目は故障が多く、クリニックに何度も出した。ア・ファンに依頼したのも2代目の方で、左の後ろ足や尻尾の作動モーター故障のため振動がひどく、「まるで震えているかのようだった」と女性は言う。「毎日、使っているので故障も多いのか、と。またア・ファンに修理を依頼することになると思う。ただ、『死なないペット』だと思っていたので、寿命は結構、短かったなという印象ですね」

 乗松さんは言う。「メーカーのロゴを付けて売った物を使ってくれているお客さまがいるんだから、会社も『部品保有期間が過ぎたから無理』とシャットアウトするのではなく、保守窓口は開けておくべきだと思う。もしかしたら汎用(はんよう)品のヒューズ1本、モーター1個の交換で済むかもしれない。成人した自分の子供が起こしたトラブルを『20歳を過ぎたから私は知らない』と、親が責任放棄するのと似ているようにしかみえない」

 AIBO修理先として認知が広まったア・ファンには、かつて純正品を請け負った工場から協力の手が差し伸べられている。AIBOの命の1つ、充電池については、セル(中身)交換の依頼先も確保した。現在、海外ユーザーからも問い合わせが寄せられている。

 「(ソニー創業者の)井深(大)理念じゃないけど、お客さまがいる間は何とかその要望に応えるようにしたい」と、決意を新たにした乗松さん。AIBO駆け込み寺の役割を果たすべく、続けていきたいという。
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